ゆく河の流れは絶えずして ~家電修理業 大変革に向けての考察~

日本家庭電化製品修理業協会 理事長 雙木 芳夫

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。

これは、みなさまがよくご存じの「方丈記」の冒頭文です。
企業寿命は30年とも50年とも言われますが、業界全体の寿命もいつかは尽きる時期が訪れることと思います。
私たちの家電修理業界も今までさまざまな困難と対峙し、その都度、知恵と努力で乗り越えてまいりましたが、いよいよ大きな変革を求められる時が迫ってまいりました。

日本社会はかつて昭和20年代に家電の“三種の神器”という言葉が登場し、高度成長の波に乗って洗濯機、冷蔵庫、テレビをみなさんがこぞって買い求め、家電業界は大きく成長していきました。
さらに音響製品(ホームステレオ)も加わり、家電品の急激な普及とともに、それら製品の修理対応になくてはならない業種が家庭電化製品修理サービス業でした。

やがて昭和40年代後半になると、メーカーのいわゆる系列販売店(地域電器店)に代わって規模の大きな地域家電量販店が台頭し始め、やがて全国規模の大型家電量販店の時代が到来。多くの顧客に対応していくためにも、家電量販店も独自のサービス体制が検討され、修理体制の一層の強化が求められました。
また、平成に代わる頃には海外家電メーカーが続々と日本市場に参入して『日本で家電品を販売するためには修理体制の構築が必須』の状況となりました。
以来、長きに渡って、家電品修理業はメーカー系であれ独立系であれ、『家電品販売の要として』その地位を築いてきました。

家電修理業界は徐々に変化してきている

しかし、そんな修理業界の状況が数年前から、いやもう少し前から少しずつ変化してきています。
その根底には、
(1) 家電品の故障率の低下
(2) 部品保有率の低下(特にテレビなどは新機種の開発が激しく、補修用サービス部品を持続的に確保できない状況)
(3) 慢性的な修理技術者不足(高齢化が進み、後継者の誕生する土壌が皆無に近い)
などの要因が挙げられます。

さらには、修理に対する意識やライフスタイルの変化も顕著になってきています。
たとえば、
(1) 修理に対する必要性の認識が薄れてきた(故障時に販売店もユーザーも商品交換を選択するようになってきた)
(2) “使い捨て”に対する罪悪感の低下
(3) 一部の商品については、修理対応より商品交換した方が経済的負担も少ないとの判断(ユーザーにとっては修理費用にプラスするだけで新品になる。販売店は商品の追加販売につながりやすく、メーカーは補修部品の保有負担の軽減とサービス費用の軽減ができる)
といったものが挙げられます。

私は充電容量が少なくなったスマホの充電池の交換を行って、5年以上同じスマホを使い続けていますが、今時そんな若者はいるでしょうか。家電品は今後ますます使い捨ての時代に進んで行くこととなると思われます。
以上の観点から、家電修理に対する必要性の低下はますます加速していくと思われます。

収益構造の改革が喫緊の課題

現在、家電修理に携わっているみなさまは、家電修理サービス文化の伝承者であり、最後の砦を守る守護者です。もちろん生活の糧としての職業人である訳ですが、それ以上に今後の家電品修理の未来を創造する方々です。

今後の大きな命題として、新しい家電品修理サービススキームを構築し、さらには平均賃金アップが叫ばれる世の趨勢と同期しながら、業界全体の収益構造の改善が急務と思われます。どうぞ長年業界をリードしてきたサービスの玄人として、また規模としては縮小している修理技術者として、みなさんで知恵を出し合って後進に新たな道筋を構築する年にいたしましょう。

抜本的改革のためのポイント

まだまだ課題も多くある家電修理サービスの抜本的な改革のヒントとして、私は以下のような取り組みが必要になると考えています。
①修理業務における労働生産性のさらなる改善を図る
②修理へのニーズ、プライオリティーが高いエアコン等の修理に特化していく
③運送業界や設置工事会社とのコラボレーションを一層進めていく
④行政への働きかけ等で家電修理の「業」としての地位確立、「存在価値」を高めていく

おかげさまで、日本家庭電化製品修理業協会(J-HARB)は全国の修理会社様、修理エンジニア様の多大なるご支援、ご協力によって、縮小傾向にある「家電修理業界」の改革に向け一石を投じることができました。しかし、まだまだやっていくべきこと、改善していくべき課題は山積しています。

さらなる成長のため、ビジネス領域として伸ばしていくため、そして何よりも「時代の変化」にしっかりと適応したサービス提供が行えるようにするため、新たな仕組みづくり、ネットワークづくり等、果敢に取り組んでいくべきだと考えています。2024年度も引き続きご支援、ご協力を賜りますよう、お願いいたします。